不育症の方へ

不育症について

不育症の原因は様々です。大切なことは流産あるいは死産を経験されたら、次回の妊娠を考える前に受診してください。
妊娠がわかったときは、すでに卵が受精してから約2週間が過ぎています。その時点からの治療では遅いときもあります。

不育症とは??

1血小板増加症

あまり知られていない不育症に血小板増加症があります。血小板は出血を止める働きを持つ血球成分です。一般的にはその数は1ミリ立方メートル中に20万―30万くらいです。血小板の中には血液凝固、血管収縮を亢進させる物質が大量に含まれています。血小板数が50万を超えるとき、流産を繰り返したり、妊娠中期・後期におなかの中で赤ちゃんがなくなることがあります。

この場合の治療には、ヘパリン、オルガランによる抗凝固療法が極めて効果があります。この治療で、これまで約10人の患者さんが元気な赤ちゃんに恵まれています。

2感染が原因となる不育症

子宮頚管無力症にかかってしまうと、下腹部痛や性器出血などの自覚症状がない状態で、子宮口が開いてしまいます。その状態のままにしておくと、100%流産か早産になってしまいます。子宮頚管無力症は、妊娠中期(妊娠13週~27週)の頃に起こりやすく、最も発症しやすい時期は妊娠20週前後です。

原因は大きく分けて二つあります。
一つは、もともと子宮が小さいか、子宮の口が柔らかいか、内子宮口と外子宮口が短くなっていることです。一種の子宮奇形と言えますが、このような原因を持つ方はほとんどいません。むしろ感染が原因になっている場合がほとんどです。膣内細菌のバランスが崩れて(膣内の善玉菌 ラクトバチルスが減少あるいは消失)、感染を受けやすい状況にあると、膣から上行感染が起こりやすくなります。また、特殊な菌(ウレアプラズマ菌)が繁殖しやすい状況になれば、これも上行感染、早期破水、早産の可能性を大きくします。

当クリニックは、大阪府立母子保健総合医療センター研究所と共同で、これらの感染を防ぐ方法を開発し、大きな成果を挙げています。

不育症の治療は??

当クリニックでの特色ある治療は、オルガランによる妊娠中の抗凝固療法です。
妊娠前の検査で子宮胎盤での血流が悪いと診断されたときは、妊娠前からのアスピリン(バファリン)などの抗血小板療法を、そして妊娠が判明してからは出来るだけ早くオルガランによる抗凝固療法を行います。

オルガランはヘパリン様物質で、作用はヘパリンと同じように、血液凝固を抑えて血流を改善する働きがあります。ヘパリンよりも妊娠中、より安全に使用できる注射薬です。

3回以上流産を繰り返し、子宮胎盤での血流が悪いと診断され、オルガランを使用した方の妊娠維持成功率は約85%です。
オルガランで治療し、流産された方の約半数は胎児染色体異常でした。

不育症と病理検査の重要性

ヘパリン療法の対象例でみられる胎盤での血流不全の原因で判明しているものは、自己免疫学的異常の1つである、抗リン脂質抗体症候群(※)や血小板増多症、凝固異常症などがある事が分かっています。しかし原因が分かっていない症例も多いのです。こうした不育症の原因を調べるには胎盤の病理検査が重要です。

しかし胎盤病理の専門家が非常に少ないのが現状なのですが、その専門家の人材育成こそが不育症治療発展のポイントになると思われます。
妊娠中期以降だけでなく妊娠初期にも、その流産時の子宮内容物を検査すると、子宮内胎児死亡を起こした症例の絨毛には血栓、フィブリン沈着などの所見が見られることが多いのです。

最初、妊娠中期の不育症に注目しておりましたが、症例数としては初期で流産を繰り返す人の方が多いのです。
今まで行われていた流産子宮内容物病理検査は、子宮外妊娠の有無と将来、悪性腫瘍になる可能性の有無を調べるだけでした。
流産を繰り返している原因を調べようというのではありません。
当クリニックでは独自の視点を持って絨毛に血流不全などの虚血性変化はないか、絨毛自身の異常はないか、感染はないか、などを調べています。

(※)抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)とは、血栓症や習慣性流産、血小板減少などの症状を示しており、抗リン脂質抗体(anticardiolipin antibcdy:ACA、lupus anticoagulant:LAC)が陽性の自己免疫疾患群のことをいいます。

子宮内環境の重要性

私は子宮内環境を整えることが、健康な赤ちゃんを出産する重要なテーマだと考えています。
人の一生を左右する因子として、遺伝的素因と環境が挙げられておりますが、最近では子宮内環境も重要視されております。それは、先ほど述べた胎盤の血流不全が不育症の原因の1つとなることからみても、容易に理解できます。

また糖尿病を持つ妊婦を例にとってみましょう。
妊娠中に母体の血糖値が高い場合は胎児も高血糖となり、新生児合併症の原因となります。
出生時の呼吸器障害のリスクも高ま ります。さらに子宮内で高血糖に晒された児の群は、晒されていない群と比べ、高頻度に肥満、糖尿病を発症するという有名なPettittの報告もあります。
生活習慣病予防は声高に言われ続けていますが、成人から小児へ、さらには胎児へと、その対策を考える必要性が高まってきたといえます。

昔は年齢を数えるのに生まれた時を1歳とし、これを数え年としていましたが、これからの周産期医療を考える場合、数え年の方が適していると思います。お母さん のお腹の中で受精したときが0歳。
そのときから、その人の将来の健康に関するプログラミングが始まっているので、約10ヶ月の胎児の子宮内環境は重要な意味を持つと考えられます。
ですから、その環境を良くすることはとても大切なことなのです。

健全な赤ちゃんが産まれるための私の提言

女性の健康は、妊娠で負荷が顕在化しやすいため、できる限り妊娠中に見極め、分娩後の女性の一生を、よりQualityの高いものにすることも当クリニックの役目だと考えています。
妊娠糖尿病の約半数は将来真の糖尿病となりますが、妊娠中に妊娠糖尿病をスクリーニングし、分娩後介入することによって糖尿病の発症を抑えることもできます。
母子の健康を考える時、妊娠前、妊娠中、分娩後に渡ったトータルなケアが必要です。

特に子宮内環境を良好にする努力は、妊娠前からスタートすべきです。
例えば、若年高血圧は二次性高血圧の頻度が高いため、妊娠中毒症や子宮内胎児発育不全を引き起こしやすいのです。
これを妊娠前からコント ロールすることによって、母子の周産期予後を良くすることが可能です。若い女性に多い自己免疫疾患についても妊娠前から調べておく必要があります。
なぜなら、抗リン脂質抗体(とくにループスアンチコアグラント)と抗SS-A抗体は、妊娠中の胎児に影響を及ぼすことが知られているからです。

前者は、凝固亢進を生じさせ、胎盤での血栓や梗塞の原因となり、胎盤での血流が減少することで、初期流産や子宮内胎児発育不全、胎児死亡に至るケースがあります。
後者は、胎盤を通過し、胎児の刺激伝導系に炎症を起こすことで、線維化が発生。胎児は心房から心室への刺激が全く伝わらない状態となり、ついには心不全や胎児水腫を引き起こしてしまいます。

しかし、妊娠前から抗体の存在が分かっていれば、抗リン 脂質抗体の場合、妊娠直後からのヘパリン持続注入法での抗凝固療法で、胎盤血流は確保され健全なる児の誕生が可能となります。
ループスアンチコアグラントは、約 20年前に私が日本で1番初めに報告し、世界に先駆けて妊娠中のヘパリン療法を行ってまいりました。抗SS-A抗体に対しては妊娠12週からの副腎皮質ホルモンの投与により、胎児の完全房室ブロックを防ぐことができるのです。この治療法も世界に先駆けたものです。

なぜ、不育症に取り組んだのか?

不育症に取り組むきっかけ私が不育症に取り組むきっかけは、まだ大阪府立母子保健総合医療センターが発足して1年足らずの時です。子宮内胎児死亡を3回繰り返し、そのうち2回は妊娠22週を越えてからの死産、という症例に出会ったことです。
母体や胎児を検査しても異常はなかったため、原因の手がかりを胎盤に求めました。すると胎盤は小さく、病理所見では顕著な血栓硬塞があり、強い虚血性変化を認めました。

そこで4回目の妊娠では、妊娠8週で胎児が確認されたときから、ヘパリンを用いた抗凝固療法を24時間連続で行いました。そして37週に反復帝王切開で2600gの赤ちゃんを分娩したのです。
この妊娠初期からのヘパリン持続注入療法は、繰り返し起こる原因不明の死産に対する治療法として、世界に先駆けたものです。

この患者さんは、3回死産しており、何もしなければ、必ず4回目も同じことを繰り返すと思い、私達はヘパリンを使ってみたのです。今ではこの治療法で通算約300人の赤ちゃんが生まれています。
中には12回流産を繰り返した人が、このヘパリン療法によって出産したという例もあります。

もちろんヘパリン療法は出血、骨粗鬆症、ヘパリン関連血小板減少症など、副作用を伴うものです。対象はきちんと決めなければなりません。

不育症のインタビュー記事も御座います。

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